発足趣意書「令和臨調とは何か」

日本の未来をまもる~日本社会と民主主義の持続可能性~

新型コロナウイルスは国内外の分断と統治の危機を顕在化させ、世界の多くの国で自由民主主義の衰退が見られる。ウイルスが人びとの健康を蝕んだように、いまや民主主義の健全性は自明視できなくなっている。

日本にとっても対岸の火事ではない。わが国が抱える課題は、グローバリゼーションと米中対立、デジタル・トランスフォーメーションをはじめとする第四次産業革命、脱炭素化などの地球環境問題、そして、パンデミックといった各国共通のチャレンジにとどまらない。

わが国では、世界に先駆けて人口減少が進行しており、今後少なからぬ自治体が存亡の淵に立たされる。GDP200%に上る財政赤字を積み重ね、量的金融緩和を続けながらも、経済は長期的停滞から脱却することができない。過去30年、経済成長を続けてきた諸外国に比べ、わが国の相対的な地盤沈下は著しい。

このような静かに浸透する進行性リスクに加えて、突発的に発生する急性リスクも無視できない。数十年に一度であるはずの気象特別警報は毎年発令されている。今後30年で首都直下地震は7割、南海トラフ地震は8割の確率で発生すると予測されている。そして、コロナのようなパンデミックが二度と起こらないと言い切れる者は皆無であろう。これらの進行性・急性リスクが複合的に顕在化したとき、われわれの社会や民主主義ははたして正常に機能できるだろうか。

いずれの課題も根は深く、解決するためには長く、粘り強い取り組みが必要になる。まずは、われわれ自身が覚悟を以て現実と向き合わねばならない。一人の英雄による期限を区切った独裁なるものの惨憺たる結末は、人類の歴史が繰り返し証明してきた。そして、たすきを引き継ぎながら、長期的、継続的に責任を持って事に当たれる主体は、政党を措いて他にはない。

世代を超え、立場を超えた幅広い人びとが立ち上がり、志ある政治家とも協働して、党派を超えて取り組まねば解決困難な平成以来の課題と取り組み、進行性の危機にも、急性の危機にも立ち向かいうる、しなやかで強靭な日本社会と民主主義の持続可能性を守ることが、令和臨調の目的である。われわれはこうした営みを通じて日本の未来を守り、希望ある日本を創り、そして育てたいと思う。

率直な課題認識と解決の大きな方向性を共有した上で、それを実行するアプローチやスキルについて知恵を出し合い、合意形成に努めることが、いま、求められるべき姿である。われわれは、たとえ短期的には苦い薬ではあっても、人びとの長期的利益をビジョンとして可視化し、その実現を可能にする人的・知的・制度的基盤の構築を目指す。

こうしたビジョンに基づく課題解決の方向付けが必要な分野として、われわれは、さしあたり、以下三つのテーマに取り組むことを、ここに宣言する。

第一に、ビジョンや構想をアクションに移す仕組み作り、「統治構造改革」である。平成時代以来の改革を検証しつつ、政党のガバナンス、二院制や国会審議等の国会のあり方、選挙制度、政府や政府与党関係、政官関係、いわゆる官僚の働き方改革など、積み残してきた課題と取り組む。さらに、熟議民主主義やデジタル・デモクラシーなどの新しいアイデアを採り入れつつ、危機にも揺らがない政権交代可能な責任ある政党政治の実現を目指す。

第二に、さまざまな危機をしっかりと受け止められる「財政・社会保障ビジョン」の形成が必要である。コロナ禍に対処し、長期停滞と格差の固定化等の問題を解決するには、財政政策が大きな役割を果たす。他方、現在の厳しい財政状況に鑑みれば、社会保障関係費を含めてワイズスペンディングを追求し、中長期的な財政の推移について正しい見通しに基づいた政策運営が図られるようにしなければならない。

第三に、人口減少と超高齢化という現実を直視した新しい「国土構想」である。人口増加を前提とし、ハード面の開発に重きを置いたかつての構想とは一線を画し、個人の自由で多様な生き方を可能にする、「人づくり」と「ネットワークづくり」に重点を置く、ポストコロナ時代の新たな社会の哲学を追求する。デジタル化技術を活かし、エコロジカルな地域の発展や、地域ガバナンスの未来像を示す。

かつてアメリカを旅したアレクシ・ド・トクヴィルは、彼地の民主主義を次のように評した。「頻繁に火の手が上がる。しかし、ひとたび事が起こると人びとは手を差し伸べ、火を消し止める」。

民主主義は政治家のみによって行われうるものではない。わが国の社会と民主主義の持続可能性を守るため、それぞれの立場や利害を乗り越えて、危機を乗り越えるために手を携えようではないか。

2022年2月28日