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緊急提言「政府と日本銀行の新たな『共同声明』の作成・公表を」に関する記者会見を開催

令和国民会議(通称:令和臨調、事務局:日本生産性本部)は1月30日、都内のホテルで記者会見を開き、設立後初めての緊急提言「政府と日本銀行の新たな『共同声明』の作成・公表を−世界が大きく変わる中で持続的に発展する日本経済を創る−」を発表しました。この緊急提言は「財政・社会保障」部会が取りまとめたもので、黒田東彦日本銀行総裁が任期満了を迎え、新体制が発足するタイミングに合わせて、政府と日本銀行による新たな「共同声明」の作成・公表を求めるとともに、新たな協力関係のもとで「財政と金融政策の一体改革」を進めることを促しています。関連資料はこちらからご覧ください。

政府・日本銀行は、新たな共同声明作成・公表を 令和臨調が初の緊急提言
財政と金融政策の一体改革求める

記者会見の冒頭、佐々木毅共同代表が「令和臨調は、世界の非常に不安定な状況と民主主義の心もとない状況を背景に、存続可能性を常に頭の片隅に置きながら、まずは、我が国の経済社会および民主主義の持続可能性を確保するために、必要な措置を提言し、国民と一緒に努力することを目的としている。今後も世論喚起に努力を重ねていきたい」と挨拶しました。

次に、「財政・社会保障」部会の平野信行共同座長が、緊急提言を出した背景を説明しました。「経済の停滞を招いた一義的な責任は、必要な投資と事業改革を行わず、生産性向上を実現できなかった民間部門にあることを自戒しなければならない。しかし、財政の歳出拡大が異次元金融緩和に伴う日銀の国債購入によって支えられるなど、財政政策と金融政策が負の相互作用を及ぼしている」と危機感を表明しました。

続いて、翁百合共同座長が緊急提言の内容について解説し、「2013年に公表された政府・日銀の共同声明はデフレからの早期脱却や物価安定の下での持続的な経済成長を共通目標に掲げたが、残念ながら結果が出ていない。この10年の取り組みを検証して、新たな連携のあり方を考えるべきだ」と指摘しました。

新たな共同声明案では、「生産性向上、賃金上昇、安定的物価上昇が起こる持続的な経済成長が実現するための環境を作ること」を政府と日銀の共通目標に掲げています。そのうえで、政府に対しては、戦略的かつ効果的な財政支出重点化と構造改革で潜在成長率を高めるほか、財政に対する信認を回復するために実効性のある仕組みと体制を構築することなどを求めています。
一方で、日銀に対しては、政府の政策の進捗を見極め、一定の時間軸の中で金利機能の回復と国債市場の正常化を図ることを求めたほか、2.0%のインフレ目標に関しては、「長期的な目標」と新たに位置付けた上で、安定した物価上昇を伴う持続的な経済成長を目指すことを求めています。
そして、財政・金融の一体改革に向けた政策の妥当性と進捗状況を定期的に検証ならびに指摘する制度的な仕組みを整備することを提案しました。

提言の終わりに、政府と日本銀行は財政の持続可能性や、異次元金融緩和の副作用として、今後正常化する過程で発生し得るコストやリスクなどの情報を具体的に開示する必要があることを指摘しました。
提言本文はこちら、要旨はこちらからご覧ください。

令和臨調は、昨年6月の発足以来、「統治構造」「財政・社会保障」「国土構想」の3部会で議論を進めており、本年度末をめどに各部会の第一次提言を取りまとめる予定です。

経済停滞の一義的な責任は民間部門にある

記者会見では、令和臨調が緊急提言を行うことになった背景や、なぜ、政府と日本銀行の共同声明に注目したのかについての説明が行われました。

ぬるま湯で新陳代謝進まず

緊急提言で示した「財政と金融政策に関する基本的な問題意識」の中で、令和臨調は「本来、経済成長は、新たな価値を生み出そうとする民間部門の自由な経済活動を通じて実現するものである。賃金も同様に、競争環境の中で民間の労使交渉によって決まり、政府が決定するものではない」という前提を確認。「したがって、経済の停滞や賃金の伸び悩みの一義的な責任は、必要な投資と事業改革を行わず、生産性の向上を実現できなかった民間部門にある」との考えを示しました。

そのうえで、「しかし、政府と日本銀行の政策対応が、長期にわたる異次元金融緩和、バラマキ的な財政支出、労働市場改革の遅れ、既得権保護的な規制の維持によって、民間部門に対して『ぬるま湯』的な環境を与え続けたことの是非も問われるべきではないか」と問題を提起しています。

このような環境の下で、「積極的にリスクを取って新しいビジネスモデルや変革に挑戦する投資や企業は増えなかった。その結果、経済の新陳代謝や産業構造変化は進まず、生産性上昇率が低下して賃金は伸び悩んだ」と評価しています。

共同声明に着目した理由

令和臨調が共同声明に注目した理由については、以下の4点を挙げています。

1点目は、「2013年1月に政府・日銀による共同声明が示されたものの、その後10年を経て、残念ながら十分な結果を出せて」おらず、「この事実に真摯に向かい合う必要がある」こと。

2点目は、「日銀の長期にわたる金融緩和の結果、経済における新陳代謝の遅れ、財政規律の弛緩、円安などの副作用が目立ってきた」こと。

3点目は、「政府が共同声明で約束した成長戦略は十分な成果を上げておらず、財政健全化に対するコミットメントも守られていない」こと。

4点目は「世界の状況も大きく変わる中で、この10年の取り組みを検証し、新たな連携のあり方を明らかにすべきではないか」という点を挙げています。

提言した共同声明の骨子

政府と日本銀行の新たな共同声明案では、「政府と日銀が連携して、生産性向上、賃金上昇、安定的な物価上昇が起こる持続的経済成長が実現する環境を作るべきである」としています。

令和臨調が提言する新たな共同声明案の骨子は次の3点です。

  1. 政府は、これまでの成果が限定的であった要因の分析・検証に立脚し、戦略的かつ効果的な財政支出の重点化と徹底したデジタル化などの構造改革を加速させることで生産性向上と賃金上昇の実現を目指すとともに、財政に対する信頼を回復するために実効性のある仕組みと体制を構築すること。
  2. 日本銀行は、政府の政策の進捗を見極め、一定の時間軸の中で金利機能の回復と国債市場の正常化を図ること。2%インフレは長期的な目標と新たに位置づけ、安定した物価上昇を伴う持続的な経済成長を目指すこと。
  3. 財政・金融の一体改革に向けた政策の妥当性と進捗状況を定期的に検証し指摘する、制度的な仕組みを整備すること。

連携が起こす「正の相互作用」

この両者の連携によって、民間部門は変革マインドやイノベーション力の向上を果たし、明日への希望を持つことが可能になります。政府は、戦略的歳出と構造改革を実行することで、産業・企業の新陳代謝、円滑な労働移動を促し、民間部門を後押しします。それが、経済活性化や安定的な物価・賃金上昇へと繋がり、国債市場の正常化と金利機能の回復に繋がるといった「正の相互作用」が生まれます。

つまり、生産性上昇、賃金上昇、安定的物価上昇が起こる、持続的経済成長の実現というシナリオを描いています。

発生し得るコスト開示を

おわりに、「政府と日本銀行は財政の持続可能性や異次元金融緩和の副作用として、今後正常化する過程で発生し得るコストやリスクなどの情報を具体的に開示する必要がある」と指摘しました。