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提言「将来も安心な日本の医療・介護を考える」記者会見 開催報告

令和国民会議(令和臨調)は12月1日、「将来も安心な日本の医療・介護を考える―持続的な制度の実現に向けた改革―」と題した提言を発表しました。この提言では、持続可能な社会保障制度の実現に不可欠、かつ、子育て財源の確保の観点からも目下喫緊の課題である社会保障の歳出改革について、医療・介護保険の給付面の改革に焦点を当て、保険の適用範囲の見直しや経営情報・医療・介護の質の情報開示など改革の必要性を訴えました。

関連資料 記者会見の様子

将来も安心な医療・介護の制度を 令和臨調が医療・介護の給付面で改革提案

記者会見には、令和臨調「財政・社会保障」部会の共同座長を務める平野信行 三菱UFJ銀行特別顧問、翁百合 ㈱日本総合研究所理事長と、同部会主査を務める小林慶一郎 慶應義塾大学教授、伊藤由希子 津田塾大学教授が出席しました。

社会保障給付は、現在、共助(公的保険料)6割、公助(税・公債)4割で支えられていますが、公助部分も、社会保障給付目的の消費税などの税財源だけでは賄いきれず、借金(国債発行)に頼っています。今後の人口動態や財政状況の変化にも耐えられるよう制度の持続性を確保するには、将来にわたり国民負担(保険料と税)が過大にならないよう社会保障支出を適正化することが避けては通れません。とりわけ公的保険の給付対象となる医療と介護は、人びとの自己実現、そして日本社会や経済を支える重要な基盤である以上、サービスの質と国民にとっての透明性・信頼性の向上が不可欠です。

そこで、この提言では、4つの視点に立って、医療・介護保険の給付面の改革をまとめています。一つ目の「価値の高い医療・介護を提供するための医療・介護保険の適用範囲の見直し」については、有効性や必要性の乏しくなった保険診療を選定療養(保険適用外の治療)に変更する一方、OTC類似薬(薬局で処方箋なしに購入できる医薬品とほぼ類似の効果を持つ保険適用医薬品)などの保険給付範囲や償還率を見直すなど、薬剤自己負担の見直しについてのさらなる議論を促しています。また、介護保険については、軽度者(要介護度1・2)に対する日常的な生活援助を含む訪問介護や通所介護にどこまで公的保険を適用し、どのような場合に公的保険外の民間サービスを組み合わせて提供できるようにするかなどの点について検討を深めるべきだとしています。

二つ目の視点である「サービスの質と経営情報の開示による信頼性向上並びに医療・介護費適正化」については、医療機関など事業所の経営情報や、医療機関の管理するヘルスレコード(治療のアウトカム)、介護事業者の介護サービスの比較情報を活用し、医療・介護事業者の質の向上と経営改革を促すとともに、国民にも広く情報公開し、利用する事業者を主体的に選択できるようにすることなどを提案しています。また、経営情報やアウトカム情報の開示を進めるとともに、かかりつけ医機能を持つ医療者を増やすことにより、事業者経営の健全化と患者の医療の質向上を促しながら、頻回受診や重複投薬などを抑制し、経営実態を踏まえた診療報酬の適正化を図ることが可能になるとしています。

三つ目の「医療・介護の機能分化と連携、報酬体系見直しによる入院医療費等の適正化」については、かかりつけ医の認定制度構築とともに、地域医療構想における地方自治体の権限を強化して、医療機関の機能分化と医療機関同士、介護施設、薬局なども含めた連携を促進することや、報酬体系の構造的な改革によって、患者の安心と医療の質の向上を図りながら、長期入院や過剰病床といった非効率を改善し医療給付の適正化とが可能になると指摘しています。また、介護従事者の低賃金が頻繁な離職等を引き起こし、介護サービスの生産性低下の一因であると指摘されている点に留意し、生産性上昇がもたらされるような適切な賃金体系を設計することが求められるとしました。

最後の「デジタル技術やデータ活用・規制改革による医療・福祉サービスの生産性向上」については、業務のデジタル化・オンライン化、AI・ロボティクスや遠隔医療の活用に加え、患者や利用者の情報を適切に共有して従業者の業務効率や働き方を大幅に改善し、労働生産性や働きがいを高める余地は大きいと指摘しています。

また、デジタル化を促進するための事業者や患者・利用者のインセンティブをより効果的に組み込み、デジタル化に努力する医療機関や介護事業者、その従事者が報われる工夫をさらに推進することによって、診療報酬の中期的な適正化を実現して国民の負担を軽減するべきだと訴えました。

提言では、子育て財源確保に向けた「徹底した歳出改革等」の議論も念頭に置きつつ、見直すべき改革の視点と無駄の排除を進める施策を例示しており、試算可能なものを実施するだけでも、少なくとも年間1兆円以上の社会保障費の圧縮が可能と推計しています。また、医療提供体制の是正や医療・介護のデジタル化が進めば、中長期的にさらにこれを上回る大幅な医療・介護費適正化の余地があることにも触れています。

平野共同座長は「単に無駄を省くだけではなく、医療の質向上と現場サービスの生産性向上やイノベーションを起こすことで、そこで働く医療・介護従事者の満足度の向上を図ることが究極的な目標だ」と語りました。

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